振替輸送

イメージ 1

 
振替輸送の列車をはじめて利用した
雨で線路が水没とか何とか言ってたようだ
ヘッドホンのスティービーニックスが遮って
よく聞こえなかった

切符をわたすおねえさんに帰り方を尋ねる
「2番線の電車にのって鶴橋で乗り換えてください」
簡潔で完璧な回答だった

振替の電車は空いていて
乗客は普段通りの人々で 自分ひとりがよそ者のよう
鞄から詩集をとりだして読むでもなく眺めていた
乗り過ごさないようにボリュームを少し絞って


降りた駅から家まで徒歩1時間
22時をすぎた商店街はまるで
むかし夢中になったゲームの地下迷宮みたい
雨でできた水溜まりが「どくのぬま」にみえたし
側溝にはちょっとしたモンスターだっていた

駅で15分と教えてもらったが
迷わなくても30分はかかったと思う
駅のおじさんはきっと歩くのが速いのだ
賃貸マンション仲介の人といい勝負をするだろう
途中気になるラーメン屋さんが開いていたが
あまりにも蒸し暑いのであきらめた

玄関をあけると家族はもう寝ていて
カブトムシがしゃわしゃわ音をたてて迎えてくれた
ぬるいおフロにさっと入って
ぬるいホッケとトウモロコシをたべながら
つめたい缶ビールを2本のんで寝た


朝起きるとオスのほうがあおむけになって死んでいた
息子が布団にうずくまって泣いていた
「死んだ命はもどらないから、生きてるときを大切にしなければならないの」
かれの母が言い小さな背中に手を置くと 泣き声はいっそう大きくなった


私は 今日も必ずここにもどってこようと思う
たとえ振替えられる列車が一本もなかったとしても